課長に恋するまで
「相合傘?」

 返事はなく寝息が聞こえてくる。
 完全に寝てしまった。

 無防備だな、本当に。

 これは危ないな。簡単にどこかに連れ込まれてしまう。
 酔った一瀬君はちゃんと送ってあげないといけないな。

 一緒の時はなるべく送ってあげるか。

 そう心に決め、一瀬君の子どもみたいな寝顔を眺めた。
 赤ちゃんを見て、微笑ましくなるみたいにぷくぷくの可愛い顔をしている。

「課長、課長」

 小さな声で呼ばれた。
 一瀬君が眠そうな目をこすってこっちを見上げる。

「何ですか?」
「私の事好き?」

 質問が微笑ましくて、頬が緩んだ。

「好きですよ。とってもいい子ですから」
「私も課長、好き」

 娘にお父さん好きって言われたみたいだ。

「かちょう、好きです。むにゃむにゃ」

 一瀬君が眠そうにまた目を閉じて、肩に寄りかかって寝息を立てた。

「ありがとう」

 一瀬君のサラサラな黒髪を撫でる。
 猫を撫でるみたいに。

 窓の外を見ると綺麗な月が出ていた。
 なんだか今夜はいい夜だ。
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