課長に恋するまで

忘年会と誕生日

 商社マンにとって12月というのはほぼ毎日、忘年会が続く季節だ。取引先や、その関連企業、そして社内の忘年会もある。
 人脈が仕事に活かされる仕事なので、優秀な商社マン程、酒の席は多い。
 
 三週目に入ると、石上君が珍しく青白い顔をしていた。
 朝帰りになる程ではないが、平日は毎日と言っていい程、午前三時帰りが続いてるらしい。

「課長、今年はきついっす」

 休憩室で栄養ドリンクを飲みながら石上君が言った。

「石上君、俺もきついよ、カミさん出て行ったし」 

 石上君の隣にいた吉田さんが言った。
 隣の課の係長で、年齢は四十才ぐらいだ。

「え!吉田係長、大丈夫なんですか!」

 石上君が大げさに驚いた。

「いつもの事なんだよ。この時期は朝帰りが続くから仕方ない。この間なんて玄関に入ったと同時に戻しちゃってさ。しかも娘のランドセルの上だったから、もう、カミさんこれもん」

 吉田さんが頭の上に人差し指を一本ずつ立て、鬼を表現する。

 そりゃあ、奥さん、怒るだろう。

 吉田さんの話を聞いて、そんな風に妻に叱られる事がなかったんだと気づき、少し寂しくなる。
 まあ、飲みすぎた日は酒臭いと娘の葵に叱られたが。

「うわっ、怖いですね」

 石上君が本気で怯えている。

「課長はどうですか?本社勤務になって飲み会増えましたよね?」

 石上君が気遣うようにこっちを見る。

「増えたね。長野にいた時の二倍になった」

 朝帰りにならないように気をつけているが、終電では帰れていない。
 長野にいた時は葵が面倒を見てくれたけど、今は一人だ。
 酷い時なんて、玄関で朝まで寝てる。
 
 今夜も忘年会がある。
 石上君にもらった栄養ドリンクを飲んだ。
 
 なんとか乗り切ろう。
< 90 / 247 >

この作品をシェア

pagetop