課長に恋するまで
「上村さんを避けてた子ですよ」

 一瀬君の事か。

「前程は避けられなくなりましたね。まだ、よそよそしくされますが」
「ふーん、それで?」
「それだけです」
「上村さん、彼女と寝ました?」

 突飛な発言に持っていたお茶を落としそうになる。
 いくらなんでも、寝るだなんて……。

「一万年経っても彼女とはそういう関係にはなりませんよ」
「どうしてそこまできっぱり言えるんですか?」
「部下ですから」
「部下じゃなかったら?」

「年が違いすぎます。そういう対象に見られません。僕には23になる娘がいるんです。娘と3つしか年の変わらない子を女性としては見られませんよ」

「私は上村さん、恋愛対象として見てますよ」
「ゆかりちゃんがそうでも、一瀬君はそう見ませんよ」
「一瀬さんって言うんだ。なんか真面目そう」
「真面目な子ですよ」
「そう言いながらも上村さん、一瀬さんの話する時、表情が柔らかくなるんですよね。本当にただの部下なんですか?」

 思いがけない指摘だった。

「危ないですよ。手を出しちゃいけないって思ってる相手程、恋に落ちやすいんですから」

 ゆかりちゃんの言葉が胸に響いた。
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