課長に恋するまで
 一瀬君がパソコン付けっぱなしで、マグカップもそのままで帰るなんてありえない気がする。
 
 何かあったんだろうか。

「課長、忘年会行きましょう」
 間宮君に言われる。

「ちょっと用事を思い出しました。先に行ってて下さい」
「課長、絶対来て下さいよ」
「行きますから」
「じゃあ、先に行ってます」
 間宮君がオフィスを出て行った。

 さて、どうするか。

 一瀬君の席の前で考える。
 パソコンは電源が付いたままで、ログアウトもしていない。
 書きかけの文書ファイルが出ていた。

 戻ってくると考えた方がいいだろう。

 待つ事にするか。

 今日は一番最後にオフィスを出るつもりでいた。
 課長としてみんなを見送りたいからだ。

 隣の石上君の席に座って、文庫本を開いた。
 誰もいないオフィスで読書というのも静かで読みやすい。
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