課長に恋するまで
「……課長」

 驚いたような声で呼ばれた。
 本から顔を上げると、制服姿の一瀬君がいた。

「何をしてるんですか?」
「読書です」
「石上の席で?」
「一瀬君を待ってたんですよ。パソコンがそのままだから戻ってくると思ったんです」
 
 一瀬君の顔を見てハッとした。
 目が赤い。泣いたような顔だ。

「すみません。パソコン忘れてました。今、消します」

 一瀬君が立ったままパソコンの操作をする。

「何かあったんですか?」
「え」
「目が赤いですよ」

 一瀬君は顔を隠すように左手で目元を隠してパソコンの電源を切った。

「何でもないです。お疲れ様でした」

 涙に混じった声で告げ、一瀬君は出入口の方に向かって行く。
 背中が泣いてるように見えた。

「一瀬君」
 声を掛けると一瀬君が足を止めた。
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