ロンドンの街並みにて
美綺は探偵事務所を営んではや3年になるが、ロンドンの街並は思いのほか平和で、物騒な事件には縁がなかった。
それでも、この半年ほど、夜中に出歩くと何度か危ない目に遭っていて、助手の三樹には「ボディーガードをつけろ」と散々怒られたのだが、それも仕方がないと思うことにしている。実際、こうして一人で歩いているだけでも、何度も声をかけられたのだ。そのたびにうまく逃げてはきたが、やはり不安になる。日本ならまだしも、こちらでは東洋人というのは目立つらしい。
「それで、トラファルガー広場で殺人があったと?」
いつものデスクでまずい紅茶を飲みながら、美綺は三樹にたずねた。
「正確には殺人事件だとも言えないけどね。まあ、強盗か何かだろうと思ってたら、死体があってびっくりって感じかな」
「驚いたよ、まったく。――ああ、そうだ、悪いんだけど、ちょっと留守番しててくれないか? これ、頼んどいた件の調査資料だからさ」
そう言ってカップを置く。最近、ロンドンに来てからできた友人がいる。これがなかなかどうして使える男なのだ。特に犯罪捜査に関してはエキスパートと言ってもいいぐらいだった。
「分かったわよ」
「頼むぜ」
軽く笑って、美綺は席を離れた。
オフィスを出て廊下を渡り、住居の方へと歩いていく。途中でふと思いついて足を止め、窓から外を眺めた。
陽射しが強い。街路樹の葉陰がなければ、眩しくて目を開けていることすら難しいだろう。
ふっと視線を動かしたときだ。歩道の向こう側にある建物の一階の窓辺に影を見た瞬間、三樹は銃を構え出した。
それでも、この半年ほど、夜中に出歩くと何度か危ない目に遭っていて、助手の三樹には「ボディーガードをつけろ」と散々怒られたのだが、それも仕方がないと思うことにしている。実際、こうして一人で歩いているだけでも、何度も声をかけられたのだ。そのたびにうまく逃げてはきたが、やはり不安になる。日本ならまだしも、こちらでは東洋人というのは目立つらしい。
「それで、トラファルガー広場で殺人があったと?」
いつものデスクでまずい紅茶を飲みながら、美綺は三樹にたずねた。
「正確には殺人事件だとも言えないけどね。まあ、強盗か何かだろうと思ってたら、死体があってびっくりって感じかな」
「驚いたよ、まったく。――ああ、そうだ、悪いんだけど、ちょっと留守番しててくれないか? これ、頼んどいた件の調査資料だからさ」
そう言ってカップを置く。最近、ロンドンに来てからできた友人がいる。これがなかなかどうして使える男なのだ。特に犯罪捜査に関してはエキスパートと言ってもいいぐらいだった。
「分かったわよ」
「頼むぜ」
軽く笑って、美綺は席を離れた。
オフィスを出て廊下を渡り、住居の方へと歩いていく。途中でふと思いついて足を止め、窓から外を眺めた。
陽射しが強い。街路樹の葉陰がなければ、眩しくて目を開けていることすら難しいだろう。
ふっと視線を動かしたときだ。歩道の向こう側にある建物の一階の窓辺に影を見た瞬間、三樹は銃を構え出した。