僕の素顔を君に捧ぐ
この仕事、甘くない。
如月さん!厳しすぎます
翌日、朝4時に出勤した。如月から聞いたセキュリティーコードで部屋のドアを開く。音に気付いたワンダーが出迎えてくれたが、部屋は灯一つ無く静まり返っていた。
「…如月さま、おはようございます」
今朝は4時30分に自宅を出る予定だ。起こすようにという指示はなかったので、トイレと洗面台を清掃したあと、掃除用のエプロンから調理用のエプロンに着替え、入念に手を洗い、珈琲とスムージーの材料をセッティングした。
出発の時間まであと10分。どうしようか迷った挙句、寝室のドアをノックしようとしたそのとき、扉が開いて如月が突然目の前に現れた。
長い睫毛の瞳をぱちぱち瞬かせたあと、目を細めて優花を見下ろす。
「あっ…!」
(近いっ!)
優花は思わず声を漏らした。昨日うっとりと画面越しに眺めていた美しい顔が、あまりの至近距離に迫って、優花は耳を赤くして動揺してしまう。
「こんなところでなにやってる」
如月が起き抜けのかすれた声で呟いた。その響きの艶っぽさにフラつきそうなのをおさえて優花は答えた。
「出発時刻が迫っていますので、お声がけした方がいいかと思いまして」
「起こせとは頼んでない」
その声は冷ややかだった。
起こすか、起こすまいか…。正解は起こさない方だったか。
内心でしょげる優花をよそに、如月は隣のバスルームに入って行った。