僕の素顔を君に捧ぐ
キッチンでスムージーを作っていると、叫び声がした。
「…きこえないのか」
「すみません、ミキサーを回していたので」
優花は慌ててミキサーを止めた。
「シャンプー補充したな。頼んでもいないのに」
「申し訳ありません」
シャンプーを補充して、ありがたがられることはあったが、叱られるのは初めてだった。
ふと気づくと、リビングのローテーブルに新しいシャンプーのボトルが入った包みがあった。
如月琉星は最近、このシャンプーのコマーシャルに出演しているというのが顧客情報に書かれていたのを思い出した。
―この香り、僕のもの
と如月が髪をなびかせながら妖艶に微笑む映像は、つい先日ドラッグストアに設置されていた小さなモニターで見たばかりだった。
彼は律義に、愛用のシャンプーを自分が宣伝するものに切り替えるつもりでいたのだ。
如月はウエストにネイビーの厚手のバスタオルを巻いただけの姿で、リビングにやってきた。
優花は呆気に取られ、つい如月の上半身に目が釘付けになる。
「よけいなことはするな」
如月は言い捨て、シャンプーの包みを取るとバスルームに戻って行った。
「申し訳ありませんっ」
引き締まった上半身に水滴の粒が滑り落ちるのに見とれていたことに気づいて、優花は慌てて頭を深く振り下ろした。