僕の素顔を君に捧ぐ
部屋を出てしばらくすると、ガタン、と書斎から音がしてドアが開いた。
「なんで起こさない?」
呆れた口調で如月が言い放った。
踏んでしまった、と優花は思った。地雷は「起こさない」という選択の方に仕掛けられていたのだった。
「すみません。あまりにも気持ちよさそうに寝ていらしたので」
「ああ…今日が締め切りなのに」
如月が頭を抱えた。
「えっ!?」
「あと30分で日付が変わってしまう」
言いながら机に戻った如月は、パソコンの画面に指を走らせ、誤字脱字のチェックをしているようだった。
「お手伝いします」
優花が言うと、頼む、といってプリンターから吐き出される用紙を手渡す。
優花はボールペンを胸から取り出し、ら抜き言葉や漢字の誤変換などを修正して書きこんだ。
読みながら、如月の仕事に対する情熱をひしひしと感じて、時折涙が滲んだ。
―努力の人…
そんな言葉が、如月の姿に重なった。