僕の素顔を君に捧ぐ
無事に原稿を送付した翌日、こんどは如月はトレーニングルームに籠っていた。
夕食を準備したら帰宅してよいと言われていたので、消化によさそうな煮物などを準備し、お風呂を温めて部屋を後にした。
翌日は久しぶりの休暇だった。如月にとっても、半年ぶりの休日だと言う。
朝、うっすらと目覚めた優花は、今日は出勤しなくていいことを思い出すと、布団の中で枕を抱きながら、二度寝に入ろうとしていた。
そこで突然携帯が鳴り響いた。見ると、緊急連絡先として登録してあった如月の携帯からだった。緊張が走る。
「…はい、百瀬です」
「すぐ来い」
「何かありましたか」
「いいからすぐ来い」
そう言って電話が切られた。
何かやらかしてしまったのだろうか。背中に嫌な汗をかきながらピンクのシャツを着込み、切羽詰まった声にせかされるように、電車を使わず原付を走らせた。
部屋のドアを開けると、如月の手がドアの隙間から差し出された。長い指に太いリードが絡みついている。
「散歩、たのむ」
「え…これが、ご用件…」
と言いかけたところで、ワンダーが抱き着かんばかりの勢いで優花にとびかかってきた。
「わっ」
顔を舐められて身動きが取れないでいると、ワンダーの給水用のペットボトルやマナー袋が入ったバッグがドアの隙間から放り出された。