僕の素顔を君に捧ぐ
ワゴン車のドアが開き、優花は後部座席に座らされた。
視界に入った警官の胸元は、普通のおまわりさんと少し違い、白シャツにネクタイが覗いている。
(偉い警察の人?)
その胸元から視線を上げると、帽子を取ったその顔が車のルームライトに照らされてはっきり見えた。
「如月さん…どうして」
「よかった、無事で」
「無事なんかじゃない。部屋が燃えちゃう。春江さんが…死んじゃう!」
「あの場所はもう危険だ。離れたほうがいい」
「でも春江さんが!」
優花は顔をゆがめて首を大きく横に振った。腕を振り回しながら泣きじゃくる優花を、如月は力強く抱きすくめた。
「おちつけ、おちつけ」
「なんで私だけ助けるの」
「それはっ…」
如月は優花の暴れる腕を取って言った。
「あんたがいないと、ウチが荒れるからだ」
優花の顔が凍り付いた。
直後、無意識に飛んだ優花の平手が、如月の頬をパシンと打った。
「なんて勝手なの。離して。ひとでなし。如月さんのばか」
拳で如月の胸を叩くが、如月は優花を抱きしめるのをやめなかった。