僕の素顔を君に捧ぐ
「袴田さん、車、出して」
如月が低い声で言った。運転席にいた袴田が、ゆっくりと車を発進させた。
車中で、如月が優花のもとへやってくるまでの経緯を、袴田が説明した。
如月は、ドラマの撮影直後にチェックしていた深夜のニュース番組の最中に、火事の速報が入った。
地名を聞いて、もしやと思った如月は、テレビ局のスタッフを通じて現場が優花のアパートであることを知った。
衣装を脱ぐ間も惜しんで車を走らせ、優花のもとに向かったのだった。
「百瀬ちゃん、あの場から無理やり引き離して、ごめんな。けどさ、自分の家が燃えるのを見つめる百瀬ちゃん、こっちが見てても耐えられなかったんだよ」
袴田は苦々しい様子で言った。
3人を乗せた車は、如月のマンションの駐車場にたどり着いた。
袴田は如月を先に部屋へ行かせ、優花を引き留めた。
いよいよ、クビの宣告が下される時が来た。
優花は頭を深く下げた。
「私いままでたくさん、如月さんに大変失礼なことを言いました。本当に、申し訳ありませんでした」
「いや、さっきのあの状況では、百瀬ちゃんが怒るのはしょうがないよ。だって、あいつがそう仕向けたんだから」
「え?」
優花は呆気に取られて、微笑んでいる袴田を見上げた。
「琉星は、俺の家が荒れるから迎えに来た、って言っただろ?あれは方便だよ。百瀬ちゃんのさ、やり場のない悲しみを、あいつは感じ取ったんだよ。だから、わざと自分に矛先を向けさせて、百瀬ちゃんの感情を自分に向けて爆発させたんだ」
…如月の場違いな発言は、優花を思ってのことだった。そう思うと、優花は震える胸の奥が緩んでいく心地がした。