僕の素顔を君に捧ぐ
三十分後、インターホンが鳴った。
画面に、三角巾を頭に巻いた背の高い女性が映っている。大川社長だった。優花と同じピンクのユニフォーム。背中にモップや箒を背負っていて、まるで決闘で奪い取った刀を背負う荒武者のようだった。
ほどなくして玄関ドアに現れた大川社長は、押していたワゴンの蓋を開けた。「グッドハウス」の社名が印字されたダストカーだ。
「新品ですから、きれいです。さ、入って」
大川社長は如月を促す。
如月は少し戸惑いながら中を覗いた。
「これで車までお連れ致します。弊社のワゴンで小野様が待機されていますので、そのまま撮影場所に直行してください。さあ、早く」
如月は言われるがままにワゴンに収まり、ふたを閉められて出て行った。
モニターを操作して門の前を映して見る。
「この混雑のせいで仕事を断られちゃったわよ。まったく」
カメラを構える人の群れに向かって威勢よく言いながら、ワゴンを押して大川社長は人だかりの間を悠々と出て行った。
すると大川社長が進む先を、報道陣がよけて道が開かれる様子が見えた。まるでモーゼの十戒だ。
優花はホッと胸をなでおろした。とりあえず撮影に行くことはできた。しかし、この後如月はどうなってしまうのだろう。
マンションに缶詰を余儀なくされた優花は、カーテンを閉め切ったまま部屋の掃除をし、冷蔵庫の食材で夕食を用意した。