僕の素顔を君に捧ぐ
如月はシャワーを終えてリビングに戻ると、ソファに体を投げ出すようにして深々と座った。

優花はライムを入れた炭酸水のグラスを、ソファの前のローテーブルに置いた。

ふと、その手を如月が取って、優しく引き寄せる。

ソファに引き込まれ、如月の隣に体を収めた優花は、間近に迫る如月の顔を見上げた。

(如月さん、何を考えているの)

彼の想いを確かめようと、じっと目を覗き込んだ。

澄んだ茶色い瞳が、まっすぐに優花を見つめている。優花の顔が、煌めきの奥深くに映り込んでいる。

その眼差しは優花を優しく包み込むように温かかった。

いつもと違う如月に、優花は激しく動揺した。

「如月さん…?」

不意に抱きしめられて、そのままソファに横倒れになった。
優花の背中はぴったりと如月に密着し、その体温が伝わってくる。

「ちょっとだけ、こうしてて」

歯磨きを終えたばかりのミントの香りの吐息が、耳をくすぐる。

「ああ、抜けていく…」

如月は呟くと、すぐに寝息を立て始めた。

「抜けていく?」

優花はその言葉の意味を考えながら、如月の腕の中で体を硬直させ、息をひそめていた。

夜が深まり、やがて、カーテンの向こうからうっすらと朝日が昇る気配がした。

優花は結局、一睡もできなかった。けれども、いよいよ迫りくる睡魔に負けて、ついに重い瞼を閉じた。

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