僕の素顔を君に捧ぐ
ふと目を開けると、隣に寝転んだ如月が、腕で頭を支えた格好で優花を見下ろしていた。

「すみません、寝てしまいました」

優花は体を起こし、寝顔を見られていたのが恥ずかしくて、熱くなる頬を両手で押さえた。

如月も起き上がって隣に座った。

「僕こそごめん。こんなところで朝まで…よく眠れなかったよね」

表情も、声も、今までの如月とは打って変わって、甘く、優しい。

「如月さん?」

豹変した如月に戸惑いながら、優花はその目を覗き込んだ。

如月も、戸惑うような眼差しを優花に向けている。


ふと、如月の唇が、優花のそれに触れた。

瞬間、優花は状況が呑み込めずに、唇を受け入れたまま目を瞬いた。

如月はそっと唇を離すと、我に返ったように目元をこわばらせ、優花から体を離した。

「ごめん…急にこんなこと」

優花の心臓は激しく打ったままだった。

如月はうっかり、何かのはずみで自分にキスしてしまったのだと思った。
疲れがたまりすぎて、心が不安定になっているのかもしれない。

優花は動揺している様子の如月の目を覗き込んだ。

「如月さん…大丈夫ですか」

優花が尋ねると、如月が首から上を真っ赤に染めたまま目を伏せて言った。

「今日から僕は、一か月オフだ。だから、君との契約は終了…」

そう、ドラマの撮影が一段落すればスケジュールが落ち着く。その時点で契約は終了というのは当初から決定していることだった。
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