僕の素顔を君に捧ぐ
「よろしくお願いいたします」
優花が頭を下げたが、如月は向き直りもせず頷いた。
その後、部屋の中を案内する如月のあとをついて歩いた。
一人暮らしと事前に聴いていたが、キッチンとリビングの他に4部屋もあり、トレーニングスペース、書斎、寝室の順に並んでいた。
どの部屋も整理整頓が行き届いていて、インテリアも洒落ている。まるでモデルルームのような部屋の数々に、優花は息をのんだ。
同時に、掃除なんて依頼する必要ないのでは、と思った。
如月が最後の部屋を開けると、大きな犬が飛び出してきた。ドーベルマンだった。
均整の取れた美しい身体のその犬は、優花の背後にいた袴田に向かって、前かがみのポーズで鼻にしわを寄せて唸った。
直後、しっぽが優花に触れ、こんどは優花の方に振り返る。
膝をクンクン嗅がれるままに、優花が緊張して立ちすくんでいると、スイっと後ろ足で立って、優花の肩に前足を乗せ、大きな舌で顔を舐め始めた。
「あわわっ。くすぐったいっ、ひゃはははっ」
頬や首筋や耳をぺろぺろ舐められ、身をよじる優花をよそに、如月が言った。
「君でいい。明日から来てもらう」
「へっ?」
優花は、突然の採用の知らせにおどろき、立ち上がる犬を抱き留めたまま間抜けな声を上げた。