僕の素顔を君に捧ぐ
優花はいったん帰宅し、翌朝から早速出勤することに決まった。
如月のマンションを出ると、優花は大川社長に電話を入れた。
「…袴田は元気だった?」
「お元気でしたよ…ってそうじゃなくて、採用が決まりましたって話」
「よかった、よかった。ワンちゃんになつかれた?」
「…ねえ社長、私が指名されたのって、動物になつかれるから?」
「そうそう。あはは」
採用のポイントは、如月本人に気に入られることではなく、飼い犬に好かれるかどうか、にあったのだ。優花は、なぜか動物になつかれる自分に白羽の矢が立った理由が、そこで初めてわかったのだった。
優花はつづけた。
「その犬…ワンダーくんには好かれたけど、如月様からは明らかに『おまえ使えないな』って空気が滲み出てて…」
「大丈夫、大丈夫。あんたの仕事見れば気に入るって」
「なんか自信ないけど…とにかく決まったし、頑張ります」
「お。えらいぞ優花。たのんだよ」
結局社長のいいようにされた形だったが、優花は電話を切ると、よし、やるぞ、と気合を入れるように頬を叩いた。