僕の素顔を君に捧ぐ
コンビニで昼食のサンドイッチを買って自宅に戻る。ベッドに体を投げだし、枕もとの愛読書をずらすと、うつぶせに寝転んだ。
社長からスマホに送られた顧客情報のファイルをパスワードで開き、如月琉星の経歴や生活スタイル、サービスに関する要望などをチェックする。
「如月琉星、本名、如月琉星。年齢、27歳、二年連続、抱かれたい男ランキング一位…」
ほれぼれするような経歴を読んだあと、そこに書かれた主演作品をいくつか検索してみた。
少し迷って直近の主演映画を再生した。
如月琉星の役は、幼馴染を一途に愛する好青年。恋人が不治の病だと知り、献身的に愛情を注ぎながら、彼女の亡くなった後はその子供たちを守っていく、というストーリーだった。
優花はいつの間にかのめり込んでいた。
琉星の瞳から落ちる大粒の涙が宙を舞うシーンは、息をのむほど美しかった。彼の輝きを閉じ込めた宝石が飛び散っているように見えた。
長く濃い睫毛にやどる、憂いのある色気。こぼれ出る言葉に誠実さの彩りを与える、形の良い唇…。どれも、美しく、完璧だった。
優花は小さな画面の中で、夢中で琉星を追いかけた。胸がどきどきして、体はうずうずして、優花は見終えると枕に顔を埋めた。
「ああ、私、ファンになっちゃったかも」
ふとそのとき、どこからともなく漂ってきたおいしそうな匂いに、優花は頭を上げ鼻をクンクンとひくつかせた。
「…うーん。おいしそうな匂い」
部屋がノックされ、お隣の春江さんだと分かった。ドアを開けると春江さんが、かすかに震える筋張った細い手で、湯気を立てる小鍋を持って立っていた。