愛のかたち
『飯食いに行こう』

 夫の(しょう)から電話があったのは、午後六時を回ってからだった。

 夕食のチキンカツは、もう下ごしらえが終わっていて、翔の帰りを待って揚げるだけだった。サラダは盛り付けてあるし、味噌汁は温め直すだけで食べれるように準備していた。
 温かい御飯を食べさせてあげたいと思って帰りを待っている彩華(あやか)の気持ちなど、翔はお構いなしだ。
 もうちょっと早く言ってくれたら良かったのに、と愚痴をこぼした時期はとっくに過ぎ去った。こんなことは日常茶飯事で、逆にそれに備えて、夕食は大量に作らないと決めている。そうすれば、その分は翌日の翔の弁当と自分の昼食に回せば済むだけで、腹も立たないからだ。

 カツサンドにして明日仕事に持たせてあげよう、と彩華は頭を切り替えて支度を始めた。
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