愛のかたち
「ご夫婦ですか?」

 隣に座っていた中年の男性が翔に声を掛けた。
「ああ、はい」と答えた翔に、「新婚さんですか?」と重ねて尋ねた。

「いえいえ。えーっと……もう十年になるかな」

 翔は確かめるように彩華に目を向けた。

「はい。十年です」

 翔に代わって彩華が笑顔で答える。

「へえ、仲がよろしいんですねえ」
「いえいえ。だって仲がいい時にしか一緒に出掛けないですからね」

 男性からの褒め言葉に謙遜するように翔が返す。

「いやいや。うちなんて女房と一緒に出掛けたって会話が続かなくて間が持たないよ」
「そんなのどこも似たり寄ったりですよ。でもまあ、うちのやつは見た目がなかなかいいし、会話がなくても観賞用としては悪くないだろうってね」

 そう言った翔は、彩華を見てにやりと笑う。

「翔ちゃん、それってどういう意味?」

 彩華が首を傾げると、常連客から笑いが起こった。
 そろそろ翔のエンジンが掛かり始めたようだ。カウンター越しにこちらに目を向ける健太もそんな顔をしていた。
 ふざけているのか本気なのかは知らないが、いつものことなので彩華も特に気にはしていない。自分相手になら別に何を言おうが構わないと思っていた。他の客に絡むよりはましだ、と。
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