愛のかたち
「綺麗な奥さん羨ましいですよ」

 カウンターの端に座っていた「野上(のがみ)」と名乗る男が口を開いた。
 翔は「白藤(しらふじ)といいます」と返してから続けた。

「見た目だけですよ。社会に出たらうちのやつなんて通用しないですから」

 そう言うと彩華に目を遣り「お前何もできねぇもんな」と微笑を浮かべた。

 彩華は唇を少し尖らせた。

「お前なぁ、そんなこと言ってたら罰当たるぞ。毎朝弁当持たせてもらって、温かい飯作ってお前の帰りを待っててくれんだろ? 毎日パリッとアイロンがかかったシャツ用意してくれて、お前の靴なんていつもピカピカだ。お前がお前らしく生活送れてるのは、全部彩ちゃんのお陰だろ」

 手際よく皿に盛り付けた刺身をカウンター越しに翔へ手渡した健太は、呆れたような、少し怒りのこもったような口調でそう言った。

「そんなの専業主婦だから当たり前だろ」

 そう言い放った翔は、今度は野上からも反感を買った。

「当たり前じゃないですよ。夫婦であっても、感謝の気持ちを忘れたら絶対に駄目ですよ」

 野上の言葉に先程の中年の男性も同意したが、翔が言うのも間違いではないのかもしれない。
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