愛のかたち
 確かに自分は何も出来ない、と彩華は思う。今まで外で働いたことは一度もなかった。特にやりたいこともなく、とりあえず行った短大を卒業後は、両親が営む洋食店の手伝いをしていた。けれど、夢がなかったわけではない。

 彩華の夢は『お嫁さん』だった。

 幼稚園児が想像するような、可愛いウエディングドレスを着たお姫様的な意味のお嫁さんでは勿論なく、真剣に、大好きな人のお嫁さんになることだった。

 幼い頃から、仲の良い幸せそうな両親を見ていて、それが当たり前だと思っていた彩華だったが、思春期に親友二人の両親が立て続けに離婚した時、当たり前だと思っていたことが、当たり前ではないことに気付かされた。

 自分は両親のように幸せな家庭を築きたい――そう心から思えた瞬間だった。

 そしてその夢は叶い、二十三歳の時、白藤翔の妻となった。
 翔は、洋食店に通う常連客だった。
< 6 / 69 >

この作品をシェア

pagetop