初めては好きな人と。
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お礼と称してこぎつけた一日デートの帰り、護はつぎの約束も私にくれた。あの日一日が最初で最後の二人の時間だと思っていた私は、天にも昇る嬉しさだった。
それ以来、私たちは平日の夜に夕飯を一緒に食べたり、週末を二人で過ごしたりと会えなかった日々を埋めるかのように時を重ねた。
護の優しさにつけこんでるみたいで、自分を嫌悪しながらも、断ち切ることなんてできないでいた。
護は、私のこと、どう思ってくれてるんだろう?
『美月は、俺の大切な人だから』
『もう、一人にはさせない』
『寂しい時は、呼んでくれて良いんだよ』
言葉の節々に感じる甘い雰囲気は、気のせいじゃない?
それとも、ただ単に私の恋愛経験値が低いせい?
護は優しいから、幼馴染として、施設育ち仲間として寄り添ってくれているだけ?
私の願いなんか、叶わなくていいって思ってたのに。
護の甘い言葉に絆されて、もっと、って自分がどんどん欲張りになってっちゃう。
「じゃぁ、また連絡する」
「うん…、おやすみ」
「おやすみ、美月」
いつものように家まで送ってくれる護に背を向けて、私はアパートの階段を昇った。格安家賃に惹かれて契約した、5階建てのアパートの最上階の角部屋。普通なら最上階は人気で家賃も割高だけど、エレベーターがないため入居希望者が極端に少なかったらしい。
私は特段気にならないし、最上階の角部屋なんて好条件またとない、と飛びついた部屋でもあった。
昇り切った先の右手の突き当たりが私の501号室、左手に行くと504号室。
いつものように、階段を昇り鞄から鍵を出しながら自分の部屋のドアに向かった私は、思わず足を止めた。
「っ?!」
私の玄関ドアの前に、誰かが立っていた。
「おかえり、遅かったね」
ぬぅ、と動いた人影が、私に声を発する。
あまりの恐怖に、声も出せなかった。
「待ちくたびれたよ、美月さん」
立ち尽くす私に向かって、一歩二歩と近づいてくるその人影。
私を、知っている…?
月明りも逆光になっていて、顔も見えない。わかるのは、男だということだけ。
逃げなきゃ。
今すぐ、逃げなきゃいけないのに、足が、体が動かない。
「こんな時間までどこ行ってたの?もしかして男と会ってたんじゃないよね?」
「や…」
かろうじて一歩後ずさったものの、震えのあまり膝がかくんとその場にへたりこんでしまった。
おびえる私なんかお構いなしに、男が近づいてくる。階段の電灯に、男の横顔が照らされて浮かび上がった。
「あ…、多田野建設の…」
多田野洋二だった。