初めては好きな人と。
5
護のマンションは、一人暮らしにしては広い2LDKの間取りで、寝室ともう一部屋は仕事部屋だと言っていた。シャワーを済ませて護のスウェットに着替えてリビングへ行くと、ホットココアが用意されていた。
ソファに座る護の隣に腰掛けてマグカップを手に取る。ほわほわと湯気が立っているのをなんとなく眺めていると、心が落ち着いてきた。護の家に泊めてとお願いしたのは自分なのに、実はとても緊張していたのだ。
好きな人の家に泊まるなんて、初めての事でどうしたら良いのかわからない。
「今でも好き?」
「えっ?す、すき?!」
「ココア、好きだったじゃん。眠れない日にこっそり食堂で作ってあげたの覚えてない?」
恥ずかしい。
好き、という言葉に過剰反応してしまった。
「覚えてるに決まってるでしょう。今も好きだよ、ありがとう」
昔、なかなか寝付けなくて一人こっそり館内を徘徊してると、どこからともなく護が現れて、食堂に忍び込んでココアを作ってくれたんだ。
ココアを口に運ぶと、あの日と同じ味がした。
「甘くて美味しい」
「良かった。あ、俺の家、来客用の布団とかないから、今日は俺のベッドで寝て」
「護はどこで寝るの?」
「俺は、ソファで寝るよ」
「やだ、そんなの申し訳ないから、護はベッドで寝て!私がソファで寝る」
「それはダメ。大事な美月をソファでなんか寝かせられない」
「で、でも…」
しばし無言のにらみ合いが続くも、一歩もひかない護に私は、ポンと手を叩いた。
「そうだ、じゃぁ一緒にベッドで寝よ?」
「は?」
「だって、施設にいた時はよく護と一緒に寝てたじゃない」
そうだ、施設だと思えば良いんだ。さっきまで変に緊張してたけど、昔に戻ったと思えば良いだけの話だ。
「そ、それは、子どもだったからで…」
私は護が隣にいると安心して眠れたんだけど…。目を泳がせて戸惑う護を見て、護はそうじゃなかったのかもしれない、と急に不安になった。
「あ…、私と一緒じゃゆっくり寝られないよね…ごめん、じゃぁ、」
「あのさぁ、美月。俺がどれだけ我慢してるか、気づいてないよね」
「我慢って、何を?え、ごめん、私全然気づいてなかった」
護にそんなに嫌な気持ちにさせてしまっていたなんて。私の言葉に、護はため息をついて心底呆れている。
「ねぇ、美月、俺だって一応男だよ?」
「へ?」
何を、そんなわかり切ったことを。
護の言わんとしていることが理解できなくて首をかしげる私に彼は続ける。
「そんな無防備な格好で一緒に寝ようなんてさぁ…」
護は頭を抱えて「あーもう、どーしよう」とひとりごちてから、意を決したようにバッと顔をあげて真っすぐに私を見つめた。躊躇いがちに、けれど鳶色の瞳が私を捉える。目尻のほくろが彼の色っぽさを際立たせている。
「美月…」
「う、うん…」
護の声が紡ぐ私の名前は一等透き通って聞こえる。
「好きなんだ、美月のことが」