初めては好きな人と。
ーーー初めては、好きな人と。
キスも、その先も。
もちろん、結婚も。
初めては好きな人としたい。
子どもの頃、淡い恋心に抱いた儚い夢が、こんなにも簡単に砕かれることになるなんて、思いもよらなかった。
それどころか、好きでもなければ、恨みさえこみ上げてくるこの家族の一員にならなければならないと思うと、いっそのこと死んでしまったほうが幸せかもしれない、とかバカな考えが浮かんでくるほどだ。
全てが、終わった。
そう思った瞬間。
「ーーー悪いが、この縁談は白紙だ」
婚姻届が音もなくテーブルの上を滑った。
私たちは、視界から消えたそれを追うように顔を見上げる。その先で、婚姻届が真っ二つに引き裂かれた。
ビリッビリッと音を立てて次々に引きちぎられていく。
突然のことに、その様を私は口を開けて見つめることしかできないでいた。婚姻届は、その人の手の中に収まるほどにまで小さくなっていく。そしてようやく、私の目はその先にある破いた張本人を捉えて、息を呑んだ。
そんな、まさか。
こんなことが、あるのだろうか。
ーーーー必ず、迎えにくるから。待っていて、美月。
忘れもしない遠い昔の記憶がくっきりと浮かび上がり、約束を交わす幼い声が耳に響いた。
まだ年端もいかない子ども同士の約束。
果たされることのない、約束。
だけど、忘れられない約束だった。