初めては好きな人と。
今は、二人の顔を見たくなかった。
護にラインで『気分が良くないからもう寝ます。夕飯作れなくてごめんね』とだけメッセージを入れて、私は再びベッドにもぐりこんだ。
ほどなくして、二人が帰ってきて少し話し声がした後、また静かになった。柿田さんは荷物を置いてすぐに帰ったようだった。
「美月、もう寝た?」
カチャ、とゆっくりと開かれたドア。ひそめた声で護が問いかける。
私は、起きていたけれど返事もせずに寝たふりを決め込む。そのまま去るかと思ったのに、護はこちらまで来てベッドに腰掛けた。
「ごめんな、美月…。俺がちゃんと守れてればあんな怖い思いせずに済んだのに…」
護の指が、私のおでこに触れる。前髪を分けて、頬に落ちる髪を耳にかけてくれる。その仕草は、やっぱり優しさに満ちていて…、胸が締め付けられた。
もう一度ドアが閉まる音がして、静寂が訪れると同時に、閉じた瞼から涙が滲み出てシーツに染みていく。
「っ…うぅ…」
あんなに優しい護を信じられない自分が苦しかった。
何度も、好きだと言ってくれているのに…。
きっと、信じられない一番の原因は、私だ。
施設育ちのなんの取柄もない私をどうして護が好きでいてくれるのか、ずっとわからないし、なにより自信が持てない。
だから護は、自分だけが裕福な家庭にもらわれたことで一人施設に残った私に対して罪悪感を持っていて、同情から一緒にいてくれるんじゃないかという不安が、ずっと心の底にずっとあった。
だから、仲の良い二人を目にしてから、護が本当に好きなのは柿田さんで、二人は両想いなのに、私がいるせいで邪魔をしてしまっているのかもしれないという疑念が浮かんで、それを拭いきれずにいたところに、さっきの二人の仲睦まじい様子を目にして、決定打を打たれたような気分だった。
苦しいよ…。
私、どうしたら良いんだろう。
「ひっく…うぅ…」
まるで私の不安を表すかのように、シーツのシミはどんどん大きく広がっていった。