初めては好きな人と。
「護は、優しすぎるから…私を残して施設から出ていったことも、負い目に感じてると思う…。けど、同情でそばにいてくれても、私は嬉しくない…。辛いだけなの…」
「え?ちょっと、待って、どういう意味?」
突然のことに、護は目を丸くしている。
護の本当の気持ちを知るのは、怖いけど、このままでいいわけがなかった。
「護に他に好きな人がいるなら、私のことは気にしないでその人と一緒になってくれていいんだよ?」
隣の護を見上げて、鳶色の瞳を見つめる。
「でも、最後にこれだけは言わせて…。…私は、護が好き…、大好きだから、護のそばに、いたい…っ」
溢れる涙で、護の顔もよく見えなくなってしまう。私はテーブルの上にあるボックスティッシュから数枚抜き取ると、目元を押さえた。
「美月…」
握られた手に力が入る。
「同情なんかじゃないよ…俺だって、美月が好きだよ…、そばにいたい。前にも言ったけど、美月以外の人を好きになったこともないから」
嬉しいのに、柿田さんとの姿が頭から離れなくて、素直に受け止められない。
「でもっ…、柿田さんは…?護は、柿田さんのことが好きなんじゃないの?」
「どうして、柿田さんが出てくるの…?彼女に恋愛感情を持ったことは一度もないよ」
「うそ…。だって、私のいない所で下の名前で呼び合ってたし…、昨日は、柿田さんと腕組んで歩いてたの見ちゃったもの…」
「あー…、あれか…」
見られてたのか、と気まずそうに呟く護に、やっぱりそうなんだ、とまた涙がこみあげてきた。
「腕を組んでたのは…、コンビニで柿田さん…英美理さんが、質の悪い男に絡まれてて、恋人の振りをして逃げてきただけで…、俺たちもともと下の名前で呼んでたんだけど、英美理さんが、美月の前で俺のことを名前で呼び捨てにするのはなんだか申し訳ないから苗字で呼び合おうって言われてそうしてた。…って、俺がいくら口で言っても、アレだよね…」
もし、それが本当なら嬉しいのに。
護のこと、信じたいけど、やっぱり今はそんな簡単に喜べない。
私がだんまりを決め込んでると、護は柿田さんに電話をして、これからこっちに来てもらうようにお願いしていた。
「本人に直接会って確かめてよ。そうすれば、きっと美月にも信じてもらえると思う」