初めては好きな人と。
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「ほんっとーに、ごめんなさい!!」
慌ててやってきた柿田さんは、私の目の前で護から経緯を説明され、みるみる青ざめると、土下座しそうな勢いで腰を折って謝ってきた。
「私が変に気を回したせいで、誤解を生んじゃったのね…、やだもう、本当、護くんにも美月さんにも申し訳ないわ…。でも安心して、私が好きなのは、美月ちゃんみたいに可愛い女の子だから、護くんのことはちっとも恋愛対象としては見れないのよ」
あまりに突然のカミングアウトに、言葉を失う。横の護に目を向けると、彼は大きく頷くだけ。会えばわかる、というのはこういう意味だったのか…。
「あーもう、ずっと我慢してたからスッキリしたわ〜。実は、美月ちゃんて私のタイプど真ん中、ドストライクなの」
ちょっと髪を触らせて、と柿田さんはうっとりとした表情で私の髪をすくって手触りを確かめるかのように滑らせる。綺麗な人に至近距離で見つめられて、不覚にもどきどきしてしまった。
「あ、あの…」
「ちょっと英美理さん、美月に近づきすぎ!」
「もう、護くんってば冗談通じないんだから、かっわいー!美月ちゃん愛されてて羨ましい!」
目の前の柿田さんが、今までのイメージと違いすぎて開いた口が塞がらなかった。
「英美理さんは、もう帰っていいよ、ありがとう、お疲れさまでした」
「うっわ、護くん、人のこと呼び出しといて用が済んだらはいさよならって最低ね」
「俺はこれから美月とちゃんと話さないとだから、ね。このお礼はまた今度ちゃんとしますので」
「はいはい、わかってますよ。私にも非があったわけだしね」
「ーーーあのっ」
どんどん進む会話を私はなんとか、声を出して止めることに成功した。二人の視線が私に向けられる。
「えっと…、私の勝手な思い込みで、お二人にご迷惑をかけてしまって…、柿田さんには、とても良くしていただいていたのに、疑ってしまって、今日もわざわざお呼び立てしてしまって、本当にすみませんでした」
「美月ちゃん…本当に良い子!護くんがずっと片思いしてたのも納得だわ。実は美月ちゃんに会うまで、護くんはゲイなんじゃないかって思ってたの」
「えぇっ」
話を聞いていた護が絶句していた。
「だって、寄ってくる女を片っ端からバッサリ断るんだもの。忘れられない子は男の子で護くんは女性に興味がないのかもって疑うのも仕方ないでしょ」
同意を求められて、「確かに…そうですね…」と言えば、護は隣で悲壮な顔を浮かべていた。それがなんだか面白くて、思わずクスリと笑ってしまう。
「だから、護くんがあなたを連れてきた時には、本当に嬉しかったの私。護くんの初恋が叶ったんだって。だから浮き足立っちゃった私が悪かったわ、ホント。美月ちゃんは気にしなくていいの。…でも、そうね、もし美月ちゃんさえよければ、こんど一緒にご飯でもどう?女子会しましょ。護くんの武勇伝聞かせてあげる」
「嬉しいです…、ぜひ」
私たちのやり取りに複雑な表情を浮かべる護をよそに、英美理さんは「またね」とにこにこ嬉しそうに帰っていった。