初めては好きな人と。
「ーーーねぇ、信じてくれた?」
英美理さんを見送ってリビングに戻るや否や、護にそう聞かれて私は首を縦に振る。
「良かった…」
「ごめんなさい」
想像していなかった事実の連続に、私の頭はキャパオーバー状態。
だけど、英美理さんまで呼び出して私の疑いを晴らそうと真摯に向き合ってくれた護のその姿勢がたまらなく嬉しかった。
同時に、こんな面倒ばかりかけて呆れられてしまったかもしれない、と怖くて不安で目をぎゅっとつむる私を護が両腕で包み込む。
「俺…、美月のこと忘れられなかったのは、同情なんかじゃないよ。施設で暮らした数年間は俺にとって本当にかけがえのない時間だったんだ。あの温かみのない空間で、美月は唯一俺の家族だと思えた」
ゆっくりと話す護の声は、私の耳に優しく響く。
「確かに美月の言う通り、美月を残して俺だけ養子にもらわれていったことはすごく申し訳なく思ってたし、罪悪感がなかったと言えば嘘になると思う。それに、一緒に暮らしていた時は、俺も子どもだったから美月のことはやんちゃで手のかかる妹としてしか見てなかった」
でも、と護は続ける。
「美月と離れてからいろんな人と出会っていくうちに、俺にとって美月という存在は本当に特別だったんだって気づいたんだ。施設を出てから美月に連絡しなかったのは、養子にもらわれた後からずっと去年までアメリカに住んでたからで…。言い訳になっちゃうけど、頭の良さで選んでもらえた以上、俺は両親の期待に応えなきゃっていう焦りもあって…、とにかくひたすら勉強に費やして、自由な時間もなくて…必死だった」
天才児と言われていた護でも、いっぱい努力してきたんだね。真面目な護のことだから、ご両親のためにも頑張ってきた姿は容易に想像がつく。
「それに、とにかく大学院を出るのが、日本に戻るための絶対条件だったから、少しでも早く美月に会いたい一心で何とか飛び級で去年卒業できて、ようやく日本に戻ってこれたんだ」
「去年…?」
なら、どうしてすぐに会いに来てくれなかったんだろう、と疑問が浮かんだ。
「うん…、戻ってきたのは良いけど、美月が俺のこと忘れてるかもとか、今さら会いに行っても迷惑かもとか、なんか色んなことがぐるぐるしちゃって…ずっと足踏みしてた」
「護が…?」
「そうだよ…、俺だって一人の人間だよ…。そうしてる間に、美月が結婚するって話を耳にした時は、本当に後悔した。でも、それはどうやら多田野建設が立場を利用して脅してるっていうのを噂で聞いて居ても立っても居られなくなって、あの日…」
あの日、護が私の目の前に突然現れた日。
夢にまで見た、待ちわびた約束の日。
「綺麗になった美月に再会して、それからも一緒に過ごす内に確信した」
体を離して、私たちは見つめ合う。
「やっぱり美月は俺にとって特別な存在で、ずっとそばにいて守りたい唯一無二の人だって」
「まもる…」