初めては好きな人と。



「また、今日からよろしくお願いします」

 出来る限り声を張ってそう言うと、周りから拍手が送られた。
 多田野洋二との結婚で退職する予定だった私は、社長の好意でまた働けることになった。職を失わずに済んでほっとしたのと、またここで働けることが何よりも嬉しかった。

「美月ちゃんが帰ってきてくれてうれしいなぁ!」

 職場のほとんどが男性で、40代以上ということもあり、みんな私のことをいつも可愛がってくれていた。多田野家との結婚で退職すると決まった時も寂しくなるな、と別れを惜しんでくれたとても優しい人たちばかり。

「いやぁ、美月ちゃんに救われましたね、社長」

 私が脅されていたことも社長がみんなに話したらしく、軽口が社長に投げかけられる。それくらい、和気あいあいとした良い職場だった。

「ホント、美月ちゃんには頭があがらないよ」
「やめてください、社長」

 苦笑交じりに返して、私は仕事に取り掛かった。今年入った新入社員の子に引継ぎを終えていたとは言え、現場との兼務だったため事務作業が滞っていたようでやることは山積みだった。

 あれから、比田井グループの担当者が会社を訪れてきて、これからの業務の依頼についての説明を受けたと社長が教えてくれた。
 今、受けている多田野建設からの仕事は比田井グループが引き受ける運びとなったそうで、本当にうちの会社は多田野建設との関係が一切なくなることになった。
 私のせいで、大きな動きが起こってしまったことが本当に申し訳ない思いでいっぱいだった。それでも、社長や他の従業員のみんなは、嫌な顔一つせずに、私を迎え入れてくれて本当に感謝しかない。

 それと同時に、あの比田井グループをそこまで動かしてしまう護のすごさにはただただ驚くばかり。いくら社長子息とはいえ、22歳という若さでそこまで出来てしまうものだろうか。スケールが違いすぎて、平民以下の私にはそんなこともわからない。

 そういった護の背景を思うと、護が私の知る護じゃないみたいで、寂しいような気持ちにもなったけど、土曜日の約束はとても楽しみだった。

< 7 / 32 >

この作品をシェア

pagetop