初めては好きな人と。
 今日は出来る限り護のリクエストに応えられるように、とお金をたんまりおろしてきたというのに、これでは全く出番がない。席に座ってふてくされる私を護は優しい眼差しで見つめると、「ごめんね」と頭をぽんぽんと撫でる。

「その気持ちだけで充分嬉しいから」

 どこまで男前になれば気が済むのだろう。そんなにキッパリ言われてしまえば、もう甘えるしかないじゃない。けど、私の気が済まないのはどうしてくれるのよ…もう。


 アクション映画は、それはそれは安定の面白さであっという間に2時間が過ぎていった。その後は、駅ビルと連結されている高級シティホテルのレストランの個室に案内されてフレンチのコース料理を堪能した。この前の料亭での食事も死ぬほど美味しかったけど、ここのフレンチも今まで食べたことの無いような料理がたくさんで涙が出るほど美味しくて幸せ。

「おいしいぃ!何これ、美味しすぎるよ、護」
「美月に喜んでもらえてよかった」

 私をみつめる護の視線に気づいてハッとする。

「やだ、ごめん、私みっともなくはしゃいじゃって…」

 あんまり食事が美味しくて、さらに個室なのを良いことに調子に乗り過ぎてた。

「みっともなくなんかないよ。美月が笑ってくれて俺は本当に嬉しいんだから」
「ちょっと…護、私のこと甘やかしすぎ…」
「何年ぶりだと思ってるのさ、そりゃ甘やかすに決まってるでしょ」
「何それ、決まってないから、ふふ」

 11年ぶりだよ。私が9歳の時だから、護と一緒にいた時間より離れてた時間の方がずっと長い。
 なのに、そんな年月ももろともしないほどに、昔と変わらない関係で話せているのが不思議。私の中で護は、思い出じゃななくて、忘れられなくてずっと私の中にいた大切な存在だったからかな。

 心を許せたのは、後にも先にも、護だけだったから。

 高校の時や就職してからも、何度か異性に告白されたことはあったけれど、私の心にはずっと護がいて、他の人に心奪われたことが一度もなかった。

 だから、ずっと願っていた。

ーーー初めては、好きな人と。

 私の初めては、護とがいい。
 もう二度と会えないと思いながらも、そう願っていた。

 だから、こうしてまた会えただけでも嬉しいのに、二人でデートに出かけてるのが、本当に夢みたい。

 これが夢なら醒めなくていいのにと思うほどに、護との時間はまさに夢見心地だった。

 どうか、今だけ。
 今だけは、この夢に、護の優しさに浸っていたい。

 たとえ、私の願いが叶わなくても、いいの。
 護が許してくれる限り、そばにいたい。

 ただ、それだけ。


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