あの頃からあなただけが好きでした
銀の指輪の台座には、小さな黄がかった茶色の石が嵌められていた。
「……なんと言うか、小さいわね。
お相手のお店は繁盛されているのよね?」
エンゲージリングと呼ぶにはチャチな造りの指輪だった。
不満げに母はそう言って、部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送って、父が話し出した。
「キース、調べたところブルーベルは青い目をしている」
「青い? じゃ、この茶色は?」
「……あまり、婚約について他では話さないで
くれるか?
クレアの事だ、良くない予感がする。
シルビアにもそう伝えてくれ」
「わかりました」
妻のシルビアにも、クレアの婚約について箝口令を引く。
実家には黙っていて欲しい、と。
ところが。
母が親族に伝えていた。
遊び好きで落ち着きがないと親戚中で言われていた末娘のお祝いを、黙っていられなかったのだ。
クレアが言う婚約パーティー会場のアフロデリアのほぼ1/3は、ウチの親戚が占めた。
続々と現れるバルモア一族を、慇懃に迎え入れるブルーベル親子の様子を見て、父の予感が当たっているような気がした。