あの頃からあなただけが好きでした

 近くにいたブルーベルが咄嗟に、手前にあったテーブルからクロスを引き抜いて、男の頭上からそれを被せたのが見えた。

 同時に男性客も男の足を引っ掛けて倒した。
 男を取り押さえるのは他に任せて、俺はしゃがみこんだクレアを抱き起こした。


「いや、いやいや……痛い……痛い、いや……」

 クレアの左頬が切られていて、左肩にはナイフが刺さっていた。
 意識はあるようだが、抱いているのが俺だとは
わかっていない。


「どなたかお医者様はいらっしゃいませんか!」

 カーティス・ブルーベルがひとりの女性を引き寄せながら叫ぶ。
 彼女は、クレアが食って掛かっていた女性で、おそらくブルーベルが言っていた愛する女だ。


 クレアを刺した乱入者は捕らえられたのに。
 ブルーベルは震える彼女の肩を抱き、側を離れない。

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