あの頃からあなただけが好きでした

 本部にはブルーベルも呼ばれたようで、ヤツは傍らの女性に何かを囁いて、一足早く外へ出ていった。

 顔色の悪い彼女の肩を、側に立っていた友人らしい女性が代わりのように抱いていた。


 父と声をかけてきた隊員について行くと、彼女の側で隊員は立ち止まった。


「マリオン、ちゃんと帰れるか?
 誰か付けて送らせようか?」

「……ありがとうブレナー、大丈夫よ」


 こいつもこの女と知り合いなのか?
 怪我もしていないこの女を誰もが気遣い……

 被害者である刺されたクレアの心配は、誰もしていない様な気がした。


 ◇◇◇


 クレアを刺した男の名前は、グレイグ・オニール。
 ガーランド衛生局に勤めるクレアの同僚で……
 既婚者だった。


 信じられないことに、ふたりは地元ガーランドで逢瀬を重ねていて、市役所にその事について密告があり、聴取の上で男は戒告処分を受けた。

 減給は無かったが、職場配置転換を余儀なくされたので、当然オニールの妻の知るところとなり彼女は子供を連れて実家へ戻っていた。


 同様に厳重注意を受けたクレアは辞表を上司に叩きつけた、と言う。

 俺達家族は何も知らされず、婚約祝いの長い休暇で有給を消化している、と信じていた。


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