あの頃からあなただけが好きでした
 さすがに流血沙汰までは望んでいなかっただろうが……


「お前だけが下手を打たされたな?
 誘惑してきたクレアを許しては駄目だ。
 パーティーに乗り込んで、皆の前で文句を言ってやれ、と言われて……
 許せない、とそれだけしか考えられなくなりました」


 グレイグ・オニールからは、酒場で見知らぬ男から焚き付けられた、と供述も得た。



 人を雇って、あの浮気男を乱入させて、自分の手を汚さず。
 マリオンを敵視するクレアと不倫相手のグレイグのふたりを片付けた。


 自分はクレアの家族に対して偽装を演じる気がないのに。
 頭の悪いクレアを利用してマリオンと再会してからも、近づいたり離れたり、思わせ振りな言動を繰り返した。


 マリオンが失ってしまった時間の価値を思い返すように。 
 兄貴の遺品を渡したり、運命なんて言葉まで使って。


 その思惑通りにマリオンは悩んで揺れて。
 初恋の綺麗な思い出に抗いきれずに。
 自分の手に落ちてきた。


 マリオンに会いさえすれば何とかなる、と計画したんだ。
 始まりは兄貴の失踪の真実を知った事か。
 王都に店をオープンさせる事が決まってからか。
 どちらにしろマリオンに会う最適なタイミングを、あの男は辛抱強く待っていた。


 それに俺にはわかってた。
 俺達の横で平気な顔をしてマリオンは居たけれど。
 本当は寂しかったんだろう。
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