あの頃からあなただけが好きでした

 世の中のよくある理では、人から奪ったモノはまた誰かに奪われる。

 会頭は今夜は違う店で、3番目の妻候補と食事をしているのだろう。
 親子程、年齢の離れた夫から棄てられた後の受け皿を、夫人は探しているのか……


 迎えが来るまで、仕方なくお相手を勤める事になった。
 夫人は酔っているので、他の客達からの視線に
気付いていないようだ。

 だからといって、スタッフ専用の部屋に招く訳にいかないし。
 それ以上に俺のオフィスには、一歩たりとも入れたくはない。


 明日、酔った奥方の姿を人目に晒したこの事に
ついて会頭からの文句があっても。
 衆目のあるところでしか、夫人のお相手はしたくなかった。


 それなのに。
 俺が席を外したその時に。
 彼女は俺のワイングラスに薬を入れた。

 ちゃんとスタッフがそれを見ていた。
 夫人が待つテーブルに戻る前にそれを伝えられたが、俺はあえて媚薬入りのワインのグラスをあおった。


「私、淋しいのよ、カーティスにはわかる?」


 期待した彼女が俺を見ている。
 親しげに名前呼びされて、伸ばされた手を避けた。
 当然みたいに馴れ馴れしいな。

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