あの頃からあなただけが好きでした
「今日は研究室に行ったので、これからご案内します。
用意をしますから、少しだけお待ちくださいね」
「いえ、場所さえ教えていただけたら……」
案内を辞退しようとする彼に、私は言い募った。
ここで、お別れする気はない。
「大学構内は凄く広くて。
私も未だに自分の学部以外の場所では迷うく
らいなんです」
我ながら、あざといかと思ったけれど。
少し舌を出して、いかにもな顔をした。
『美人だけがしたら許される仕草』と、誰かがお酒の席で話していたから。
ここぞの時にと、たまに鏡の前で練習していたのだ。
私は皆が認める美人なんだから、大丈夫。
それなのに、彼の反応は……特に無い。
余程、美人に見慣れているのか、それとも。
マリオンみたいな、どうってこと無い普通の女が好みなのか。
この彼といい、スコットといい。
私好みの美しい男達は、何故あんなチンケな女がいいの?
憤慨しながら、少し胸元の開いたブラウスに着替えて、手早く化粧を手直した。
このブラウスを着ると、男達はいつも私を眩しそうに見る、いわゆる勝負する時の服だ。
カーティスをマリオンのところに連れて行って、ふたりが食事にでも行くのなら、絶対にそこに混じってやる。
だが、あのマリオンときたら『自分だけ』みたいなところがあった。
以前、スコットと夕食に行く、と聞いていて。
私はスコットからはあまり好かれていないことは自覚していたから、ふーんと思っただけだった。