あの頃からあなただけが好きでした

 キーナンさんの話を義兄に聞かせたのは、彼が秘密を抱えて生きていくのも良し。
 彼等夫婦ふたりで、姉の傷を舐め合って生きていくのも良しだ、と思った。


 心弱いジュリアが私に、自分の罪を告白するとは思わなかったけれど。
 義兄からの影響は姉を強くしたようだが、相変わらず幼子のように涙を流す。
 
 ……まぁ、どんなに泣かれても。
 許す気はないけれど。



「私が悪かった、と今からでも。
 カーティスに言って……
 そうしたら彼も、他の人との結婚なんて取り止めて……」
 
「やめてよ、もうどうにもならないわ」


 そう、もうどうにもならない。
 私が手紙を受け取れず、約束の場所に行けなかった理由を、カーティスは知ったけれど。

 だからと言って、彼の手が私に差し出される事はなかった。
 彼はもうクレアの恋人なのだ。


 キーナンさんの指輪を私に渡して、彼は帰っていった。
 クレアの元に。



 6年も経った今になって、謝られても。
 どうにもならない話だ。
 失くしてしまった時間や想いは……
 もう帰ってこない、私の手には。



 今回の里帰りは、ジュリアへの決別の為。
 どんなに後悔されて、謝られても。
 私は姉に笑うことは出来ない。


 ……だから、私はもう、ここには帰らない。
 コーカスには、あの頃の思い出が多すぎる。

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