【短】夏のせい、君のせい。
「……学校は?」
「転校するよ。県外だし」
俺の絞り出した声に対して、いつも通りの変わらない声で返される。
その声が、俺の気持ちを変に刺激する。
モヤモヤ、チクチク、ムカムカ。
どんな気持ちなのかはわからない。
言葉では表せられない複雑な感情が湧き上がってくる。
気持ち悪い。
言語化できないマイナスな気持ちなんて、この世から消えればいいのに。
初めて感じるよくわからない感情に、どうすればいいのかわからない。
今までこんな状況になることはなかったから。
夏奈がいれば、一生知ることはなかったはずだから。
「………知らなかった」
いろいろ考えて出たのは、どうでもいいようなこと。
「うん。今言ったもん」
そりゃそうだよな。
当然だ。
知らなかったのは、聞いていなかったから。
夏奈が俺に言っていなかったから。
今知ったのは、夏奈が今初めて言ったから。
当たり前のことだ。
考えなくてもわかる。
夏奈の笑い交じりだった声から推測して、俺の困惑に気づいているに違いない。
別にそれは気づかれたってどうでもいいけど。