【短】夏のせい、君のせい。
「……うん」
「うん」
何も言葉にできない。
17年、夏奈と一緒にいるけど、こんなことは一度もなかった。
どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ?
決まってすぐに言ってくれたら良かったのに。
一週間前まで隠していたということは、意図的に言わなかったんだ。
今まで兄妹みたいに育ってきて、俺たちの間に隠し事はなかった。
お互いがお互いをいちばん知っている。誰よりも分かり合っている。
俺たちは本当の家族よりも、近い距離でお互いを見てきた。
だから、夏奈がこの町を出て行く。
そんな重要なことをギリギリまで教えてもらえなかったことに、俺はすごく腹を立てているのかもしれない。
今日一学期の終業式を終えて、夏休みに突入した最高の今なはずなのに。
来年は受験生になるから、思いきり遊べるのは今年だけなんだ。
それなのにこの夏、俺と夏奈は離れる。
いちばん近かったはずの夏奈が、遠い存在になる。
「ちょっと歩こうよ」
ベンチから立ち上がり、ぐっと空に向かって大きく伸びをする。
学校からの帰り道にある公園のベンチにて、この重大な話は始まっていた。
俺の気持ちはすべて置いてけぼり。
いろいろと言いたいことはあるはずなのに、何も言葉が出てこない。
「……うん」
小さく頷いて、俺も立ち上がる。