【短編集】男子アイドルユニット「IM」の隠し事
ユニット結成の記者会見の日、控え室で出番を待っていると、光の代わりをする水月に颯真はこう言った。
「俺たち二人でトップアイドルになろう。大丈夫。俺と光ならなれるよ」
颯真と光なら、きっとトップアイドルになれる。
颯真も、光と同じかそれ以上に、歌やダンスが上手かった。
でも、今のままだと、トップアイドルになれない。
颯真とユニットを組んでいるのは、光じゃない。
光の振りをしている水月である。
颯真をトップアイドルにする為にも、早く光には戻って来てもらわなければならない。
光より劣っている水月では、颯真をトップアイドルに出来ないからーー。
「光、ちょっといい?」
自室に居ると、コンコンとノックの後、颯真が顔を覗かせた。
ユニットの結成力を高める為に、事務所が用意したマンションに同居し始めて、二週間が経った。
なるべく、颯真と顔を合わせないように、自室に籠もって、食事や入浴の時間もズラすようにしていたのだった。
「どうしたんですか?」
光だったら、こう答えるだろう、こういう声音だろうと考えながら、話すのも慣れてきた。
「明日、急遽、仕事が入ったらしい。マネージャーさんから連絡がきてない?」
充電中だったスマートフォンを確認すると、マネージャーからメッセージが入っていた。
「こっちにも入っていました」
「女性向け雑誌の撮影とインタビューだって。初めてだよね? インタビューに備えて打ち合わせしようと思って」
颯真の言う通り、デビューシングル関係以外の仕事は初めてだった。
インターネットニュースの芸能ページに載せるからと、メールでのインタビューもあったが、それはほとんど颯真が答えてくれた。
「打ち合わせ……ですか?」
「ああ。今回のインタビューでは、ユニットの結成秘話として、俺たちの出会いや互いの印象が聞かれると思う。仕事に対する想いや抱負もね。ある程度、話を合わせた方が良いと思って」
「あくまで俺の予想だけどね」と、颯真は付け加える。
過去に芸能界で活躍した経験のある颯真が言うのなら、間違いないだろう。
それなら、颯真に任せておけば、ボロは出ない。
「颯真さんに合わせるので、打ち合わせはしなくて大丈夫です」
颯真は肩を竦めた。
「何度も言ってるけど、ソウでいいよ。でも、打ち合わせはした方がいい。俺たちはまだ互いを知らないのだから」
最初に出会った頃から、颯真は「俺の事はソウって呼んで」と言ってくる。
けれども、それは光に言っているのであって、水月には言ってない。
そこは、しっかり区別しないと。
「大丈夫です。颯真さんに任せます」
「光……。俺に気を遣う必要ないよ。ここでの生活も気を遣ってばかりで、食事も、洗濯も、風呂だって、一人で済ませてるし」
食事はともかく、洗濯と風呂は気を遣わないと、水月だとーー女だとバレてしまう。
だからこそ、颯真と時間をズラしているのに。
水月は話題を逸らす事にした。
「そういう颯真さんだって、食事はケータリング、洗濯はクリーニングに任せてますよね?」
「それは……」
「とにかく、こっちは気にしないで下さい」
胸がチクリと痛む。これでいいのだと、自分に言い聞かせる。
そうしないと、罪悪感に苛まれて泣きそうだった。
「わかった。何かあったら言って」
そっと部屋を出て行く颯真を見つめながら、水月は思う。
こんな気持ちになるのなら、光の身代わりを言い出さなければ良かったと。
「俺たち二人でトップアイドルになろう。大丈夫。俺と光ならなれるよ」
颯真と光なら、きっとトップアイドルになれる。
颯真も、光と同じかそれ以上に、歌やダンスが上手かった。
でも、今のままだと、トップアイドルになれない。
颯真とユニットを組んでいるのは、光じゃない。
光の振りをしている水月である。
颯真をトップアイドルにする為にも、早く光には戻って来てもらわなければならない。
光より劣っている水月では、颯真をトップアイドルに出来ないからーー。
「光、ちょっといい?」
自室に居ると、コンコンとノックの後、颯真が顔を覗かせた。
ユニットの結成力を高める為に、事務所が用意したマンションに同居し始めて、二週間が経った。
なるべく、颯真と顔を合わせないように、自室に籠もって、食事や入浴の時間もズラすようにしていたのだった。
「どうしたんですか?」
光だったら、こう答えるだろう、こういう声音だろうと考えながら、話すのも慣れてきた。
「明日、急遽、仕事が入ったらしい。マネージャーさんから連絡がきてない?」
充電中だったスマートフォンを確認すると、マネージャーからメッセージが入っていた。
「こっちにも入っていました」
「女性向け雑誌の撮影とインタビューだって。初めてだよね? インタビューに備えて打ち合わせしようと思って」
颯真の言う通り、デビューシングル関係以外の仕事は初めてだった。
インターネットニュースの芸能ページに載せるからと、メールでのインタビューもあったが、それはほとんど颯真が答えてくれた。
「打ち合わせ……ですか?」
「ああ。今回のインタビューでは、ユニットの結成秘話として、俺たちの出会いや互いの印象が聞かれると思う。仕事に対する想いや抱負もね。ある程度、話を合わせた方が良いと思って」
「あくまで俺の予想だけどね」と、颯真は付け加える。
過去に芸能界で活躍した経験のある颯真が言うのなら、間違いないだろう。
それなら、颯真に任せておけば、ボロは出ない。
「颯真さんに合わせるので、打ち合わせはしなくて大丈夫です」
颯真は肩を竦めた。
「何度も言ってるけど、ソウでいいよ。でも、打ち合わせはした方がいい。俺たちはまだ互いを知らないのだから」
最初に出会った頃から、颯真は「俺の事はソウって呼んで」と言ってくる。
けれども、それは光に言っているのであって、水月には言ってない。
そこは、しっかり区別しないと。
「大丈夫です。颯真さんに任せます」
「光……。俺に気を遣う必要ないよ。ここでの生活も気を遣ってばかりで、食事も、洗濯も、風呂だって、一人で済ませてるし」
食事はともかく、洗濯と風呂は気を遣わないと、水月だとーー女だとバレてしまう。
だからこそ、颯真と時間をズラしているのに。
水月は話題を逸らす事にした。
「そういう颯真さんだって、食事はケータリング、洗濯はクリーニングに任せてますよね?」
「それは……」
「とにかく、こっちは気にしないで下さい」
胸がチクリと痛む。これでいいのだと、自分に言い聞かせる。
そうしないと、罪悪感に苛まれて泣きそうだった。
「わかった。何かあったら言って」
そっと部屋を出て行く颯真を見つめながら、水月は思う。
こんな気持ちになるのなら、光の身代わりを言い出さなければ良かったと。