【短編集】男子アイドルユニット「IM」の隠し事
姉貴は専門学校を卒業すると、コツコツと貯めていた貯金を使って、すぐに実家を出て、自立した。
颯真が実家を出て、水月と共に事務所が借りているマンションに住み始めた際、洗濯機や掃除機といった家電や、高級炊飯ジャーや電子レンジといった調理器具セットを送りつけてきたのも、いい機会だから自立をしろという意味だろう。
ただ、その家電は颯真ではなく、水月が使っているので、姉貴の思惑通りには行っていないようだが。
「水月?」
完成した朝食を前にしても、水月の顔色は優れなかった。朝食にもほとんど手をつけていなかった。
このままでは、せっかく朝早くから作ってくれたお味噌汁にほかほかのご飯、適度に焦げ目のついた焼き魚が冷めてしまう。
「食べないと、身体がもたないよ。昼には、現地入りしないといけないんだからさ」
「sing! sing! sing!」は、スタジオとは別に全国各地にアイドルたちが点在して、歌を披露する姿が中継される。
颯真たち「IM」も、とある遊園地の野外ステージから、中継される事になっていた。
そこまでの移動時間や、リハーサルの時間を考えると、ゆっくり座って食事が出来るのは、朝のこの時間しかないだろう。
「わかってる。でも、ソウ君とも光とも違って、私らダンスは下手だし、歌もトークも上手くない」
「そんな事は無い。水月だって、光と同じくらい上手だよ。もっと自信を持って」
本物の茂庭光には、最終オーディションでしか会っていない。
でも、その時に見ただけで、光が全てにおいて秀でているのがわかった。
ーー天才という言葉は、光の様な人を指す為にあるのだと。
けれども、水月だって、充分に上手かった。
歌も、ダンスも。
トークもこれから数をこなせば上手くなる。と颯真は確信していた。
おそらく、これまでは光の影に隠れて、水月はあまり目立たなかったのだろう。
今は光という「比較対象」がいないので、水月自身の力をはっきりと感じられた。
「今でも、初めて水月の歌声と合わせた日を覚えているよ」
目を瞑れば、水月と初めて歌を合わせた日ーー歌のレッスンの初日を思い浮かべられた。
あの日、颯真は水月の歌声に戦慄したのを覚えている。
明らかに光とは歌声も声質も違かった。
けれども、颯真の歌声と合わさるように、水月の歌声がピッタリとはまったのだ。
あそこまで、誰かと歌っていて気持ちいいと思った事はなかった。
ずっと歌っていたいとさえ、その時の颯真は思ったのだった。
「あとになって、水月と一緒に歌うのが楽しかったんだって気づいた。初めてなんだ。誰かと一緒に歌っていて、楽しいと思ったのは」
「そうなの?」
「そうだよ。だからさ、水月はもっと自信を持っていいんだ。俺が保証する」
ファンが喜ぶと思って、必死に練習した片目を積むってみせると、ようやく水月は笑ってくれた。
颯真はホッと肩の力を抜くと、立ち上がった。
「食べ終わったら、出発までもう一度、歌とダンスを確認しようか」
「いいの? ソウ君が付き合う必要はないのに……」
「いいから、いいから。俺も緊張しているんだ。人前に出るのは、久しぶりだからね」
食べ終わった食器を運ぶ颯真の背に、「意外。ソウ君は緊張しないと思ってた」と水月が呟いた。
「俺だって緊張するよ」
肩ごしに振り返りながら、颯真は答える。
水月と初めて立つステージは成功させたいと、そう思ったのだった。
颯真が実家を出て、水月と共に事務所が借りているマンションに住み始めた際、洗濯機や掃除機といった家電や、高級炊飯ジャーや電子レンジといった調理器具セットを送りつけてきたのも、いい機会だから自立をしろという意味だろう。
ただ、その家電は颯真ではなく、水月が使っているので、姉貴の思惑通りには行っていないようだが。
「水月?」
完成した朝食を前にしても、水月の顔色は優れなかった。朝食にもほとんど手をつけていなかった。
このままでは、せっかく朝早くから作ってくれたお味噌汁にほかほかのご飯、適度に焦げ目のついた焼き魚が冷めてしまう。
「食べないと、身体がもたないよ。昼には、現地入りしないといけないんだからさ」
「sing! sing! sing!」は、スタジオとは別に全国各地にアイドルたちが点在して、歌を披露する姿が中継される。
颯真たち「IM」も、とある遊園地の野外ステージから、中継される事になっていた。
そこまでの移動時間や、リハーサルの時間を考えると、ゆっくり座って食事が出来るのは、朝のこの時間しかないだろう。
「わかってる。でも、ソウ君とも光とも違って、私らダンスは下手だし、歌もトークも上手くない」
「そんな事は無い。水月だって、光と同じくらい上手だよ。もっと自信を持って」
本物の茂庭光には、最終オーディションでしか会っていない。
でも、その時に見ただけで、光が全てにおいて秀でているのがわかった。
ーー天才という言葉は、光の様な人を指す為にあるのだと。
けれども、水月だって、充分に上手かった。
歌も、ダンスも。
トークもこれから数をこなせば上手くなる。と颯真は確信していた。
おそらく、これまでは光の影に隠れて、水月はあまり目立たなかったのだろう。
今は光という「比較対象」がいないので、水月自身の力をはっきりと感じられた。
「今でも、初めて水月の歌声と合わせた日を覚えているよ」
目を瞑れば、水月と初めて歌を合わせた日ーー歌のレッスンの初日を思い浮かべられた。
あの日、颯真は水月の歌声に戦慄したのを覚えている。
明らかに光とは歌声も声質も違かった。
けれども、颯真の歌声と合わさるように、水月の歌声がピッタリとはまったのだ。
あそこまで、誰かと歌っていて気持ちいいと思った事はなかった。
ずっと歌っていたいとさえ、その時の颯真は思ったのだった。
「あとになって、水月と一緒に歌うのが楽しかったんだって気づいた。初めてなんだ。誰かと一緒に歌っていて、楽しいと思ったのは」
「そうなの?」
「そうだよ。だからさ、水月はもっと自信を持っていいんだ。俺が保証する」
ファンが喜ぶと思って、必死に練習した片目を積むってみせると、ようやく水月は笑ってくれた。
颯真はホッと肩の力を抜くと、立ち上がった。
「食べ終わったら、出発までもう一度、歌とダンスを確認しようか」
「いいの? ソウ君が付き合う必要はないのに……」
「いいから、いいから。俺も緊張しているんだ。人前に出るのは、久しぶりだからね」
食べ終わった食器を運ぶ颯真の背に、「意外。ソウ君は緊張しないと思ってた」と水月が呟いた。
「俺だって緊張するよ」
肩ごしに振り返りながら、颯真は答える。
水月と初めて立つステージは成功させたいと、そう思ったのだった。