孤高の極悪総長さまは、彼女を愛しすぎている

おれが風呂からあがるとすぐに「映画に間に合わなくなる!」と慌てたように浴室に駆け込んでいった。


ものの20分ほどで戻ってきた杏実の髪は濡れていて、どき、とする。



「まだ始まってない!?」

「あー……あと3分だな」

「え、やばい! 急いで乾かさなきゃ……っ」


ドタバタとあっちの部屋に戻っていく。

相変わらずそそっかしいな。


ドライヤーの音を聞きながら思わず笑みがこぼれた。


ずっとこの時間が続けばいいと思った。

隣の部屋に杏実がいて、一緒に映画を観るために待っているこの時間が。


もう少ししたら、またドタバタと慌ただしく戻ってきて、ソファに座るんだろう。


杏実は映画を観るとき、ソファの上で体育座りをして、いつもじっと画面を見つめる。

少し甘えて寄りかかっても怒らない。

ちょっかいをかけても画面から目を話さずに、ほっぺたを膨らませて「今いいとこ」だと言う。
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