孤高の極悪総長さまは、彼女を愛しすぎている
「ゆ、きくん……? 顔真っ青だよ、大丈夫……?」
杏実に触れられた瞬間、おれの中で何かがぷつりと切れる音がした。
怒りでもない。
悲しみでもない。
なにも感じられないくらい恐ろしく冷たい感情に支配された。
みんなの前での明るいおれは偽物。
杏実と中城の前だけ素の自分でいられる。
はずだった。
2つのおれ……どちらとも、違う自分になってしまったような気がした。
「さっきから何言ってんのか……
ぜんぜんわかんねーな」
黒いものが頭を埋め尽くして、制御できなくなる。
自分を保っていたはずの本当の人格さえ
失われそうだった。
違う人間をどこか遠くから眺めている感覚。
初めて自分のことを “怖い” と思った。