孤高の極悪総長さまは、彼女を愛しすぎている
ケーキのあまりの美味しさにすっかり忘れてた。
……ううん、嘘。
雪くんの冷たい目とか、声とか、突き飛ばされたときの痛みとか、押さえ込んでただけで、本当はぜんぶ焼き付いてて。
だけど押さえ込むことができたのは、本領くんが手を取ってここに連れてきてくれたおかげ。
「おかげでちょっと元気戻った気がする。本当にありがとう……」
姿勢を正して頭を下げる。
あのタイミングで助けてもらえなかったら、わたしはおかしくなってたと思う。
傷が癒えたのはもちろん、助けてもらったおかげで冷静になって、わかったこともある。
人間ぎりぎりまで追い詰められると、周りのことが一切見えなくなるってこと。
していいこととか、悪いこととか、考える力も奪われる。
現にわたしは、悪くない中城くんを叩いてしまった。
言い訳にも聞こえるかもしれないけど、あのとき手が出たのは、本当に“無意識”だった。
操られてるみたいなの。
怒りとか悲しみとかを通り越した、なにか黒いものに呑み込まれて、自分が自分じゃなくなるみたいな感覚……。
雪くんのアレも、もしかしたらそういう感じのものだったのかも……って、
初めて理解できた気がしたんだ。