孤高の極悪総長さまは、彼女を愛しすぎている


中城が──おれの胸ぐらを、掴んだからだ。

冷静な瞳がまっすぐに射抜いてくる。



「頭冷やせ、雪」

「…っ」


心臓がドクリと大きく脈を打った。


ずっとどこか遠くで聞いているような感覚だった声が、今度はきちんと近くで響いた。


中城に “雪” と、呼ばれたのはいつぶりだろう。

 
──────



「お前が招いた事態だろ。取り戻したいならてめぇの力でなんとかしろ。甘ったれてんじゃねぇよ」



いつだって能面みたいだった表情が崩れている。怒りをはらんだ声をおれにぶつけてくる。



「好きな女を幸せにすんのが男の役目だろ!」



頭に流れ込んでくるのは昔の記憶。

毎日のように遊んでいた男が


『雪様。本日より側でお仕えいたします』


──ある日突然、知らない顔をしておれの前に立ったときの絶望。



がくり、と足元から力が抜けた。



「っ、おい雪、」


焦った声が落ちてくる。おれの腕を雑に引き上げる力が懐しかった。

何の前触れもなく床に落ちていったのは──涙。


「雪……?」

「……もう二度と、こーいう風には喋ってくんないだと思ってた、」
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