甘く、溶ける、君に。


本当にその通り全然可愛くない。

考えられる一番可愛くない返し。


返答に素直さがひとつもなくて、少しくらい可愛くいたいって思うのに。



『声、聞きたくなって』



壁一枚隔てた向こう側にいるきみの声が、スマホから聞こえる。

薄い壁からは直接聞こえてこなくて、スマホを介してしか聞こえてこないのがもどかしい。


私だって聞きたかった、昔よりもうんと低くなったその声を。

機械を通してじゃなくて、直接。通信に先越されたくない。



「……うん」



"私も"なんていえない。いえない。


言ったら、なんて返ってくるかな。

気になるけど、いえない。いわない。


ソファーにいつも置いてあるクッションを抱きしめる。



……別に、代わりになんかしてない。




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