甘く、溶ける、君に。


「素材の味だよ」


「うん。でも千輝くんが私のために作ってくれたことが嬉しいし、倍くらい美味しく感じる」


「……遥乃も、大概」


「ん? 何か言った?」


「……なんも」



一瞬だけ目を逸らされたけど、それはほんの一瞬ですぐに私と目が合う。


千輝くんはきっと、なんとも思わないんだろうな。私はこれだけで心臓がドキドキいって仕方ないのに。



じっと見られながら食べるご飯は慣れないし、変な感じがしたけど、嫌な感じはしなかった。



向けられている視線が優しかったから。


人に見られること、嫌な、嫌悪感とともに向けてくる人は多いけどそれでは全くなく、心地良くて、ドキドキいう心臓がおさまらなくなるだけで。



「ごちそうさま」と呟く。

千輝くんの顔を見ると、やっぱり表情は柔らかくて優しい。




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