甘く、溶ける、君に。



小さい頃からずっと千輝くん、と呼んできたからなんだか恥ずかしくて慣れなくて。


やっぱり難題だった。完全敗北していた冬の手のひらが熱を帯びる。

勝利に傾く手のひらとは裏腹に、今日も私は君に完敗だ。



「……帰ってからにすればよかった」


「……え、何か言った?千輝、」


「ごめんやっぱいい、フライングしなくていい」




もう一度、君を見上げてみれば。


マフラーと髪に隠れてちらりと見える耳が赤くなっていて。

口元をマフラーで隠す千輝くんを見て、手のひら同様、形勢逆転できるかもしれないとピンときた。



だから、ずるい君にちょっとだけ意地悪。




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