実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「ねえ……もしかしてランハートは昔、シルビアと何かあった?」


 先日、ふと浮かび上がった疑問。
 ランハートはほんのりと目を丸くし、それから穏やかに目を細めた。


「――――純粋すぎる人間は、僕は苦手です」


 全然、質問の答えになっていない――――だけどきっと、それが全てなのだろう。


「そっか」


 答えつつ、少しだけ胸がモヤモヤする。
 ランハートはクスリと笑うと、そっと身を乗り出した。


「僕のことが気になりますか?」


 尋ねられ、ドキンと大きく胸が跳ねる。
 昨日、バルデマーに『意識してほしい』って言われた時のドキドキと、似ているようでちょっと違う。何がどう違うのか、今のところ説明が出来そうにないけども。


「…………そりゃあ気になるわよ。あなたも一応、婚約者候補なんだし」

「ハハッ」


 答えたら、ランハートは声を上げて笑った。いつも気取った彼らしくない、楽し気な笑い声。腹を立てても良い筈なのに、何でだろう。寧ろ嬉しい。


「今はお互い、そういうことにしておきましょう」


 そう言ってランハートは、わたしの額にチュッと優しく口づけた。
 心臓がバクバクと鳴り響く。頭上で微笑むランハートの表情から目が離せない。
 だけど、彼相手に分かりやすく反応するのは何だか癪だ。そっと視線を逸らしつつ、澄ました表情を浮かべ続ける。


「また来ます」


 耳元で響く甘やかな声音。ランハートの香が遠ざかる。
 やがて、扉が締まる音を確認してから、わたしは大きくため息を吐いた。真っ赤に染まった顔を両手で覆い、唇をグッと引き結ぶ。


(嫌な奴)


 心からそう思うけど、不思議なことに、ランハートを婚約者候補者から外そうという気にはならなかった。
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